翌日、仕事をすませ猫を引き取りに行き、おばーちゃんとお孫さんにお礼をいい猫をキャリーバッグへ入れた。
「結構汚いから洗ってから家に入れた方がいいよ」
「え?洗う?わ、わかりました」
困った、猫の洗い方なんて知らない(苦笑)そういえば電車に乗るときって猫の料金も払うんだろうか?
焦った。同居人も焦っていた。
やっとそのとき、自分たちに猫に関する知識が全くないことに気が付いたのだ。ひゃー!
駅員に聞いたところ、猫は手回り品料金で乗車できるとのこと。
「きゃー ぴー なーん」
車内で鳴きまくる子猫をなだめながら自宅の最寄り駅に到着。すでに猫も人間もヘトヘト。
交番でペットショップの場所を聞き、まずはそこへ連れて行くことに。
洗って貰うためだ。
ペットショップには猫や犬がケージの中に何匹も居て鳴きわめいていた。
「遅くにすいませ〜ん」
店の奥から、清潔そうなユニフォームを着たおばさんが出てきた。
「あのーさっき猫貰ってきたんですけど、洗い方わからなくて。。。洗って貰いがてら教えて欲しいんですけど」
ずーずーしい頼みを、この女性は「いいですよ〜」とすんなりと引き受けてくれた。
「ちっちゃい子ね〜♪」と言われながら、猫をキャリーバックから出してみると、なにかケースのそこに黒いつぶつぶがいっぱい落ちている。
「なんだ?これ?」
「う〜ん・・・この子ノミがいっぱいいるねー」
「ノミ???」
大量の黒いつぶつぶはノミの糞。
「はい、これがノミ」
お店の人が体ウゴウゴ足ばたばたしているノミを見つけて見せてくれた。思わずゾっとした。
「ノミがついたままおウチに入れちゃうと大変だからねー。当分はノミ取りシャンプーで洗って上げてください」
お店の人は手際よくキャリーバックを消毒し、子猫の小さな体にシャワーをかけ、泡立てたノミ取りシャンプーで洗いはじめた。
真っ黒い水が子猫からしたたる。
「ノミが体にいると、かゆくて猫ちゃんも寝られないからね。今日はノミを全部捕ってしまうからよく寝られますよ」
洗いながら使っているクシはノミ取りクシ。私は聞き漏らさないようにシャンプーやらクシやらオスメスの区別の仕方やら爪切りの仕方やらを頭にたたき込む。
「きゃー」
そして子猫は二度洗いされた。
ドライヤーで乾かしながらも、店の人は必至に毛をかき分けながらノミを探して洗剤水にノミを放り込んでいった。
「おとなしいねーもう少しだよ」
お店の人は汗だくで2時間かけてシャンプー&ノミ取り作業をしてくれてた。しかもシャンプーして貰った料金はサービスしてくれた。
「ありがとうございます〜助かりました。そのノミ取りクシとシャンプー下さい」
ノミ取りクシは外国製で目が飛び出るほど高かったけど、ノミ取りして貰ったことを考えると安いもんだ。
すでに外は真っ暗、店を出るときにまたお礼をして、私たちは自宅に向かった。
キャリーバックの中の子猫は、おもちゃまで貰って天使のような寝顔で寝てしまった。
「今日はつかれたねー」
「こんな時間までつき合ったんだから、子猫の名前は決めさせて貰うよ」
「えーーーー!」
そんな訳で、天使の名前は同居人の命名で『さくら』になり、我が家に娘が一匹出来た。
彼女は虫の為に網戸のアナを大きくし、襖をひきさき、同居人の足にスッポンの様にかみついて離れず、ゴミをあさって自分の体よりも大きい魚の骨を喉に詰まらせ、ドアが開こうものならすかさずヌルリと逃亡し、外の猫とケンカして前足の付け根に大きなアナを空けて帰ってきたりした。
天使が悪魔に変貌するのには、さほど時間はかからなかったのだ。