君は覚えているかい?
車に踏まれた時のことを…
僕はね、無我夢中で何がなんだかわからなくてさ。
気がついたら君を車に乗せて病院を探したっけ…
助手席に乗っていたアルバイトの女の子が君を抱いてさ。
僕はとにかく病院を探しまくったよ。
でもね・・・
真夜中だったから、病院なんて開いてなくてさ。
今にも死にそうな、君の顔を見ていると、早く探さなきゃと気が焦る…
続く
ね〜、さくら。
グッタリ倒れた君は、クチから血を吐きだし、うつろな目で僕を見つめる。
その時、君は何を語りかけてくれたのだい?
語りかける余裕なんてないはずなのに…
今はまだ名前もない、ただの野良猫…
でも…
ただ、その大きな瞳が何かを訴えている…
目はまだ死んでいなかった…
君の生への執着心が、僕の心を突き動かしたんだ。
行こう!
病院へ!
僕は君を見捨ててそのまま車で逃げたんだ。
でもね…、君のひっくり返る姿が僕の脳裏に焼き付いてしまってさ!
5分ほどして戻ってきたんだよ。
そしたら、君はグッタリと血を吐いて倒れていた。
もう死んでいると思ったけど、かすかな息使いがね。
僕に『助けてくれ!』と言っているようだったんだ…
ちょうど赤信号で信号待ちしていた所に、車の下にもぐりこんだんだね。
なぜ君はあんな場所に入ってきたんだい?
それは、君と僕が出会うための運命だったのかな?
車を発進させた時、右後輪が大きく浮き上がった感触は、
今でも鮮明に覚えているよ。
バックミラーを見て振り返ると、君は大きくもがいていたね。
バックミラーから見た君の姿…
僕は一生忘れないよ。
忘れられない。
そんな僕は、怖さのあまり君を放置して逃げたんだ…
ゴメンね、さくら。
あの時のことを。
僕はね、あの日はバイトの子を車で自宅まで送って行く途中だったんだよ。
さくらは、あの場所で何をしていたのかな?
まさか信号待ちをしている僕の車の下に、
君が入り込んでいたなんて気が付かなかったよ。
痛かっただろうね、苦しかっただろうね。
でもね、お外の世界は凄く危ないんだよ。
さくらの体よりずっとずっと大きな車が、ビュンビュンスピード出して走っているんだもの。
あの時はホントビックリしたよ。
はじめて僕たちが出会った頃をさ。
これから、僕たちが初めて出会ったときの話をしようか〜。
あの時は大変だったね。
ゴメンね。さくら。