子供時代、塀の上にいた猫にいきなり引っ掻かれた経験のある私は、それ以来猫が苦手になっていた。犬を飼っていたので、その匂いが付いていたせいなのかも知れないし、猫はただ遊びたかっただけかも知れないのだが。とにかく私は大の犬好きで、結婚するまでは犬とばかり生活していた。
まむとくっちゃが庭に越して来た時も、その内又どこかに引越しして行ってくれるだろうと呑気に考えていた。けれども気になり毎日猫親子の様子を観察していた。
くっちゃは目やにと涙で汚れた顔をしていたが、それはそれは愛くるしい子猫で何とも言えなかった。尻尾が曲がっているのは、どこかに挟まったのか、交通事故にでもあって骨折しているのかと思ったが、本やネットで猫の事を調べて、生まれつきのかぎ尻尾だと知る。曲がった尻尾で幸せを掴んで来るのだそうだ。今は幸せかな?
まむの母親ぶりは人間顔負けの頑張りようだった。自分のことは二の次で、大事に大事にくっちゃを育てていた。自分一人だけ生きて行くのもさぞかし大変だろうに、子供を育てるには過酷過ぎる環境だ。カンカン照りの猛暑の中、寝床と食べ物の確保、強い伝染力のある病気、犬や他の猫との戦い、心無い人間の心無い行為...。まむの背中は大きく禿げている。初めてワクチン接種で病院に連れて行った時、皮膚病かもと診て貰ったが、検査の後 「怪我か火傷をしたのかも。」と言われた。私は言葉を失った。やけど! まむはどんな人生を送ってきたのだろう?
私はくっちゃには「かわいいね。」を連発し、まむには「えらいね、かしこいね。」といつも声をかけていた。今でもまむの頭を撫でる時は「まむちゃんはえらいねえ。」と言ってしまう。 まむの頑張りは、もうこれ以上は無いというほどだったが、どうもくっちゃがいまいち元気が無く、目やにと涙が酷くなってきた。猫の病気を調べてみると、どうやら猫ウィルス性鼻気管炎のようだった。子猫には命取りの病気と書いてある。当時うちにはハムスターがいた。2歳になるジャンガリアンハム。2歳と言えば、もうすっかりお年寄りで、しかも闘病中だった。猫を同居させる事はできない。しかし、くっちゃをこのままほっておけなかった。こんなに可愛いのに...。まむがこんなに頑張っているのに...。決心して、ハムスターがお世話になっていた動物病院へ連れて行った。やはりウィルス性鼻気管炎だった。注射をして貰い、ついでにワクチン接種も。飲み薬と目薬を貰った。薬は半年間毎日飲み続けないといけないらしい。肝臓も患っていて、こちらは一年間の投薬が続いた。この日からくっちゃは我が家の家族の一員になった。暫くしてまむも一波乱の後に続いて家族となるが、これについてはいずれ又の機会に書くことにします。