彼の脱走ルートは決まっている。洗濯物を干そうとベランダの窓を開けた途端、右方向へ稲妻のごとく走り出る。何の躊躇もなくベランダの柵の隙間から跳躍、一階シャッター(うちには雨戸はない)の格納庫を伝い、車庫の屋根へ。そのまま山中へ逃走…
のつもりだろうが、そうはいかない。車庫の下には、クロスケがいる。普段寡黙な彼だが、ここぞとばかりに吠え立てる。それに呼応し、四方八方から近所の犬が吠え始める。そうなるともう、万事休すだ。全身竦み上がった彼は、哀れ、なすすべもなく確保される。
少しは学べよ。