この子は10歳まで生きられないでしょう。
次に産まれてくる子に希望を持って下さい。 次兄が発病した時、医師はこう言ったそうである。
兄の病は現在でも治すことは出来ない。
筋肉がどんどん痩せ衰えていく残酷な病である。
医師としてもこんな言葉しか出てこなかったのだろう。
しかし次兄は11歳と10ヶ月生きた。
医師の予想より2年近くも長く生きた。とても素晴らしいことだ。
私は知らなかったのだが、兄は何度も生死の境を彷徨ったそうである。
亡くなる前年にも、危篤状態になったことがあった。
声帯を取って、気道を確保しなければならない状態にまでなったが、
母が医師にお願いをしてそれだけはやめてもらったそうだ。
『この子はしゃべることが好きなんです!このまま死んでも文句は言いませんから、
この子から声を奪わないで下さい!!』母の願いは聞き届けられ、兄は亡くなるまで思う存分しゃべることが出来た。
そんな事を知ったのは、大分後になってからである。
この辺の事情もやはり長兄は知っていたらしい。
私だけが知らなかったのだ。
兄の存在が私にいろいろなことを教えてくれた。
『私たちがこの世に存在している』のは、とても幸運なこと。
幸運によって生かされている私たちが、どうして小さな命を粗末に出来るのか!
それは到底許されることではないと思う。
理屈ではなく魂でそう感じて生きている。
遺棄された小さなこの子たちをどうしても無視できなかった。
これが『縁』だと思って、一緒に暮らし始めた。そしてこの子たちからパワーをもらって、一生懸命働いている。